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長野地方裁判所 昭和55年(わ)75号 決定

本籍並びに住居

富山市上千俵八七二番地

無職

宮〓知子

昭和二一年二月一四日生

本籍

富山県射水郡小杉町戸破四二九二番地

住居

同県同郡同町中太閤山一二丁目三番地県営住宅五六棟一〇四号

無職

北野宏

昭和二七年二月一日生

右両名に対するみのしろ金目的拐取、殺人、死体遺棄、拐取者みのしろ金要求被告事件について、被告人宮〓知子については同被告人本人から、被告人北野宏については検察官及び弁護人から、それぞれ、本件と右被告人両名に対する富山地方裁判所に係属中のみのしろ金目的拐取、殺人、死体遺棄被告事件(同庁昭和五五年(わ)第七四号)との併合請求(但し、検察官及び被告人宮〓知子からは本件に富山地方裁判所事件を、被告人北野宏の弁護人からは本件又は本件のうち被告人北野に関する分を富山地方裁判所事件に併合審理されたい旨のもの)があつたので、当裁判所は、関係各当事者の意見を聴き、次のとおり決定する。

主文

本件に、被告人両名に対する富山地方裁判所昭和五五年(わ)第七四号みのしろ金目的拐取、殺人、死体遺棄被告事件を併合して審判する。

理由

一、被告人両名に対する当裁判所昭和五五年(わ)第七五号みのしろ金目的拐取、殺人、死体遺棄、拐取者みのしろ金要求被告事件(以下長野事件という)は昭和五五年四月二〇日起訴にかかるものであり、右両名に対する富山地方裁判所昭和五五年(わ)第七四号みのしろ金目的拐取、殺人、死体遺棄被告事件は同年五月一三日起訴にかかるものであつて、右各事件は、現在、いずれも、第一回公判期日未指定の段階にあるものであるが、右両事件は別紙添付の各起訴状写のとおり、刑訴法九条一項にいう関連事件に該当するところ、右各事件の公判追行を担当する長野地方検察庁検察官及び富山地方検察庁検察官の各意見によれば、「長野事件は、被告人両名が富山事件においてみのしろ金を入手することに失敗したことからこれに引続いて敢行した計画的犯行であつて、両事件は犯行の動機、共謀の状況等において実質的にも相互に密接不可分に関連する」というのであつて、実体的真実の究明、審理の経済的かつ円滑な進行を期するためには、右両事件を併合して審理するのが相当と考えられる。

二、ところで、前記各検察庁の各検察官は、いずれもそろつて、「富山事件は共謀ないし犯行の場所が富山あるいはその近辺であり、取調べが予想される証人も同様富山あるいはその近辺に居住しているのに対し、長野事件は、共謀の場所や犯行の場所が富山、長野、群馬、埼玉、東京の各都県に及んでおり、取調べが予想される証人も各地に散在しているので、富山地方裁判所において審理するよりも長野地方裁判所において審理する方が便利である。富山事件の証人が長野地方裁判所に出頭することは十分可能であるのに反し、東京、埼玉、群馬等に居住する証人が富山地方裁判所に出頭することは著しく困難である」とし、後記被告人宮〓知子の希望をもしん酌すると富山事件を長野事件に併合するのが相当である旨主張する。

そして、被告人宮〓知子も、「富山は私の出生地でありずつと育つた所でありますので、友人、知人も多く、家族も現在生活しております。それに私には、長男拓也(十歳)があり、現在小学校五年生でありますが、せめてこれ以上家族や子供につらい思いをさせたくないと思い、少しでも富山から離れたいという気持が強く、何とか長野で裁判を受ける事ができたらと思つています。……何卒よろしくお願い申上げます」と述べて強く当裁判所における審理を希望しているのであつて、以上の諸事情に、被告人宮〓は私選弁護人を選任せず、国選弁護人の選任方を申出ていること、被告人両名はいずれも富山に住居を有するとはいえ、いずれも勾留中の身であつて、長野において公判審理を受けても特に格別の不利益を蒙るとは認められないこと、長野事件は拐取者みのしろ金要求の訴因が加わつている点で富山事件より重大かつ複雑であり、しかも先に起訴されていることを考え合わせると、被告人両名に対する前記各被告事件は当裁判所においてこれを一括併合審理するのが相当と思料される。

三、被告人北野の弁護人は、長野事件を富山事件に併合するよう求め、その理由として、「(1)、被告人両名の住居地は富山県であること、(2)、富山事件が長野事件に比し、犯行日時が先行し、本件一連の犯罪行為の基本であつて真相究明の中心となること、(3)、両事件が長野地方裁判所に併合されると、被告人北野とその家族や弁護人との接見が困難となること、(4)、被告人北野から現在選任されている四名の弁護人はいずれも富山市在住であり、長野地方裁判所に併合されると、時間と費用の両面で多大の負担を強いられ、資力の十分でない同被告人の家族においてこれを補てんすることは困難である」旨主張する。

しかしながら、先ず、被告人北野の住居地が富山県であるとはいつても、先にも触れたように、同被告人は現在本件重罪被告事件で勾留中の身であるから、公判廷への出廷等について必らずしもその住居地自体を特に重要視しなければならない理由はない。また、同被告人の弁護人は、昭和五五年四月二〇日長野事件が当裁判所に起訴された日の前々日である同月一八日に私選弁護人を受任しており、その時点ではいまだ富山事件は捜査中で起訴されていなかつたのであるから、その限りでは当裁判所において長野事件に関し被告人の弁護を担当する意思と責任を有していた筈であり、当裁判所において富山事件を併合審理するに至つたとしても、前記時点における以上に特にその弁護活動を困難ならしめるものとはいい難い。また、弁護人が、長野事件と富山事件を一括担当することによつて時間と費用の面で多大の負担を強いられるであろうことはより了解し得ないところではないが、仮りに長野事件を富山事件に併合審理したとしても、右両事件の事案の性質上、検証、証人調等のため、それ相当の負担は避け難い筈であり、当裁判所において併合審理する場合に比して右負担が特に著しく軽減されるものとは認め難い。なお、右両事件を当裁判所に一括審理する場合、被告人北野とその弁護人にとつて、接見その他の打合せ等につき、事実上ある程度の支障が生じることもあろうが、本件の性質上それもやむをえないところであつて、弁護人の各所論をもつて前記判定を左右する論拠とは認め難い。

四、以上の次第であるから、刑事訴訟法八条一項に則り、主文のとおり決定する。

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